東京高等裁判所 昭和46年(く)255号 決定
被告人 野間邦彦 外一〇名
〔抄 録〕
記録に依れば、被告人山田義種が昭和四十六年十一月二十九日開廷の第十四回公判期日において被告人の冒頭陳述を行ないたい旨発言したことはこれを認められるが、右発言は裁判長において「本日はまず当裁判所の従前の決定・審理計画に基いて予定した証拠調の手続を進める。今の段階においては被告人らの公判期日延期申請に対する決定は留保する」旨宣した上、鑑定人尋問の手続を施行しようとした際、これを無視してなされたもので、裁判長は同被告人に対し右発言の禁止を命じたに拘らず、同被告人がこれに従わなかつたため退廷せしめられたこと、裁判長は、右退廷命令の執行後右被告人よりその非を詫び再入廷許可方申出があつたので、当日予定された証拠調終了後、被告人において冒頭陳述書を準備しているにおいては冒頭陳述を行なわせる意図の下に、裁判所書記官を通じて、被告人につき冒頭陳述の準備の有無を調査させたところ、冒頭陳述として発言できるような準備はしていなかつたことが夫々看取できる。右事実に依れば、小松裁判長において所論の如く被告人らの冒頭陳述を拒否したものとは到底認め難いのみならず、被告人らは冒頭陳述をなすといつてもこれを行ない得る準備をしていなかつたことが明らかである。而して記録に依れば、本件の起訴は前記のとおり昭和四十四年十二月八日(但し被告人大内については更に同年同月二十日追起訴)であり、公判は翌四十五年七月十四日第一回公判の開廷以来同四十六年十一月二十九日までに計十四回開廷されており、被告人らとしても起訴事実に対する反証等防禦の準備をする時間的間隔は相当あつたことも看取できる。以上の事実を勘案すれば、所論はこの点において理由がないのみならず、刑事訴訟規則第百九十八条第一項の規定は、裁判所の自由裁量権を認めたものであつて、被告人らの冒頭陳述を許すべきか否かは裁判所の自由裁量に委されたものと解すべく、これを許さなかつたとしても毫も違法であるとはいうことができない。(東京高等裁判所昭和二十五年六月三十日判決、高等裁判所刑事判決特報一六号九六頁参照)。
(八島 沼尻 中村)